2015年11月号で前作「I’ll close my eyes」を本欄で紹介した、鈴木輪の久々の新作。同レーベルでは教材用として歌入り、歌抜きのCDをリリースしているが、本作はその中からパフォーマンス性の高い演奏をセレクトし、彼女のヴォーカルをアフレコした作品である。録音時期もメンバーも異なっているが、彼女のために新たなセッションで一発録音したような統一感のある内容とサウンドは
同レーベルの確たるポリシーでの録音と制作の賜物だろう。
エンジニアの上田隆志氏は著者がTBM(スリーブラインズマイス)時代に手がけた大型フュージョングループ「ZAP 」の2作の
録音後に加入したベース奏者で、本作でも6曲でベースを担当している。
本作はバックがシンプルなピアノトリオだけに前述の作品と同様に彼女の魅力が存分に発揮され、馴染みのスタンダード曲と
夏に似合うボサノヴァナンバーを交えた、誰もが親しめる作品となっている。
著名曲が集められた国内制作盤などを聴くと、初出作品や大ヒットしたアーティストの作品を聴きたくなることもあるが、原曲のメロディーを
大切にしつつ気負いなく自身のものとして歌う彼女の伸びやかなヴォーカルを聴くと、そのまま良いんに浸っていたくなる。
バックのトリオも堅実な演奏で、同時録音ではないが、彼女を的確にサポートしているという印象を受ける。
サウンドはどこにも協調感のないナチュラルな質感で捉えられ、音量を上げても刺激的な響きはなく、上質なライブを聴いているように感じる。