LOVE LOVE LOVE RE-MIX ラブラブラブリミックス/ 鈴木輪

The Walker’s (2016Vol.46)レビュー掲載

12 年の時を超えて~鈴木輪 meets 鈴木リエ
亀吉レコードの原点となったアルバム『ラブラブラブ』は、ジャズ・シンガー鈴木輪が鈴木リエとして活動していた2004年に発表。2010年鈴木輪に改名以降、3枚のアルバムを発表しているが、今回は隠れ名盤『ラブラブラブ』をリミックスし、素敵に復活させている。タイトル曲のダニー・ハサウェイの名曲やマイルスもカヴァーしたシンディー・ローパーの「Time After Time」、スティーヴィー・ワンダーの「I wish」「Creepin’」等、選曲も魅力。実力派ミュージシャンによるバンド”スピリチュアルライフ”の好演も素晴らしい。「12年前の自分の歌声にちょっと照れる」と語る鈴木輪のエレガントなヴェルベットヴォイスの原点に触れることが出来るオシャレな癒しのアルバム。

(The Walker’s 加瀬正之)
  • 亀吉レコードの原点となった鈴木の「ラブラブラブ」をリミックスし復活させるという大仕事
    この「Love Love Love」は今聴いても非常に良いアルバムで、このまま埋もれてしまうのは惜しいと思い、数年前より再リリースを検討していた。
    ヴォーカルも2004年は鈴木リエの名前だったが、2010年に改名していることもあり、鈴木輪として、この隠れた名盤「Love Love Love」の再リリースを決めた。
    96KHz/24bitで録音していたのでハイレゾとしてリリースするためにはミックスをやり直さなければならなかった。
    ハイレゾだけでなく亀吉レコードの高音質CDのリリースを待ち望んでいる方もいるということなので「Love Love Love」のリミックスを決めた。
    私は元々ベーシストだが、現在はベースを弾くよりエンジニアとして仕事をすることが多くなっている。
    1998年頃より宅録をはじめ、2000年に自己のユニットMeyouでの録音を手掛けたが、「Love Love Love/ 鈴木リエ」において、初めてバンド録音からミックスまで行った。
    今考えれば、2004年リリース時のアルバムの録音、ミックスにより様々な実験、研究をし、学ばせてもらった。このアルバムの録音がなければ今の自分はないと言えるぐらいだ。「Love Love Love」は亀吉音楽堂、亀吉レコードの原点とも言える作品である。
    このアルバムは、2000年頃より私もバンドメンバー(ベーシスト)として活動を共にしていた「鈴木リエ&スピリチュアルライフ」のアルバムだ。
    ライブを重ね、バンドとして良いサウンドになってきた2002年頃、録音をスタートさせた。
    低予算での録音だったので出来ることは何でもやろうと思い、リハーサルスタジオに以下の機材を持ち込んだ。

    • YAMAHA O1V(ミキサー)
    • VINTECH AUDIO1272(マイクプリ)
    • DRAWMER 1960(マイクプリ)
    • A-DAT

    録音の手順は以下のように行った。

    • ドラム、ベースとキーボード、ヴォーカルでA-DATにマルチ録音したものを自宅スタジオのProtoolsに取り込む(サンプリングレート96KHz/24bit)。
    • ドラムのパートのみ残し、自宅スタジオでベース、キーボードをダビングした後、サックス、ギター、パーカッションなどをダビングし、オケを作る。
    • 歌の本録り。

    初めてのことなのでドラムにマイクを立てる位置がよく分からず試行錯誤を繰り返した。
    しかもベースを弾きながらである。
    宅録作業に入ってからは、メンバーに何度も小さなブースに足を運んでもらい、ダビングし、その後ミックス。
    というわけで、録音をスタートしてからアルバムが完成するまでには1年半ぐらい時間がかかった。
    この時の「Love Love Love」も、自分なりに最善をつくした作品で当時の環境の中で、よく健闘したと思うが、今、考えると自宅スタジオの電源、モニター環境が良くなかったため、諸々の問題が分からず作業をおこなっていた。
    それに比べ、2016年現在のスタジオ、亀吉音楽堂の環境が非常に良くなっているので、問題点が色々と浮き彫りになった。
    嬉しい悲鳴であるが、これにはまいった。
    ミックスをやり直して再リリースをすると言ってしまったが、何とかなるのか?
    問題点を解消する方向でミックスをすると音楽的につまらなくなる。
    何度も挫折しそうになりながらも、試行錯誤。
    それぞれの機材の電源の取り方と、電源ケーブル、ラインケーブルの調整を行い、問題点が明確になり時間がかかったが、調整を続けながらこれ以上は無理だと思えるところまで行った。
    膨大な労力であったが、結果的に今回のリミックスにより、サウンドクオリティーも向上し、音楽的魅力も増した気がする。
    より良くなった2016年の「Love Love Love RE-MIX/鈴木輪」もぜひ聴いていただきたい。

    2016.07    亀吉音楽堂 上田隆志
  • 浅草ジャズ・コンテストのグランプリ受賞。あるいはNHK”BSジャズ喫茶”への出演など。様々なキャリアを積み上げてきた鈴木リエはそのきらびやかな道程とは裏腹に、ジャズ界にあって特異なポジシ ョンを占めるヴォーカリストです。
    例えばブロッサム・ディアリーのように声質そのものが耳目を引くタイプのアーティスト、例えばエラ・フィッジェラルドのように情念で歌い切ってしまうタイプのア ーティスト。
    鈴木リエはそんなカテゴライズのどちらにもあてはまりません。
    彼女は鼻声でもないし、どんな癖もない透けて見えるように涼やかな声の持ち主なんです。うっすらとかけるビブラートや、何の力みも感じさせる事のないフレージングは確かな歌唱力の証明に違いありません。
    「癒しのヴォーカリスト」という世間の評判はまさに正鵠を射たものと言えるでしょう。
    気負いのないそのスタンスや通りの良い素直な歌唱には、若さに似合わぬ足元をしっかりと踏みしめた大人の余裕さえ感じさせます。
    そしてジャズ~フュージョンのシーンで活躍するバンド「スピリチュアルライフ」。
    このバンドはグッと叙情的でお洒落なサウンドが他のバンドと大きく違うところ。
    一つ一つの音をしっかり耳元に届けてくれるシンプルでフックのきいたプレイが印象的のベースの上田隆志。
    ブルースフィーリングに溢れたギターの片桐幸男。
    湿度100%のサックス・ブロウでバンド全体のサウンドをまろやかにしてくれるサックスの後藤輝夫。
    そして急遽ゲスト参加してくれる事になった元チキンシャックのキーボーディストで売れっ子ジャズピアニストの続木 徹。
    「癒しのヴォーカリスト・鈴木リエ」の個性を余すことなく引き出した充実の仕上がりになっています。

    (ライナーノーツ たかはしあきお)
    • I want to spend the night
      1980年に「ジャスト・ザ・トゥ・オブ・アス」でグラミー賞を獲得したビル・ウィザースの曲。オリジナルはしわ枯れ声のいなたい曲だったのに、鈴木リエは持ち前のニュー トラルな感性で意外なほどお 洒落な作品に仕上げています。
    • Love, Love, Love
      夭折したダニー・ハザウェイ最後のアルバムEXTENSION OF A MAN”収録の隠れた名曲。思い入れも特別なものがあるようで鈴木リエには珍しく、シャウトを聞かせるエモーショナルな ヴォーカルを披露しています。
    • The look of love
      ブロードウェイのミュージカルにもなったバート・バカラックのヒット曲。スカパラのユニークな演奏も記憶に新しい。鈴木リエはこれぞフュージョン・ヴォーカルという、王道を行 くアプローチを見せました。
    • makin’ whoopee
      ナット・キング・コール、チェット・ベイカーなど様々なアーティストが取り上げているスタンダード・ナンバー。ゲストのサックス後藤輝夫のブルージーなソロが出色です。
    • Time after time
      帝王マイルスがカバーしたことも話題になった、シンディー・ローパー1983年のヒット曲。ゲスト・ギタリスト片桐幸男の音数の少ないプレイが渋い。
    • Come rain or come shine
      ハロルド・アーレンの同名ミュージカルの挿入曲。ビル・エバンスやケニー・ドリューなどのアーティストにより、好んで演奏される事が多い。優しく自然なヴォーカルに終始 からんでくるファンキーなエレピ。二つの対比が面白い作品です。
    • I wish
      スティービー・ワンダー不朽の名作「The Key Of Life」の収録曲。ワイルドでアバンギャルドなサックスのブロウ。そして不動のベース・リフを上田隆志がどう崩していくのかも聞き所。
    • Creepin’
      スティービー・ワンダーのアルバム”ファースト・フィナーレ”の収録曲。キーボード長池秀明のシンセが霧に煙っているようで、いい味を出しています。
    • La la means I love you
      フィリーソウルのグループ”デルフォニックス”最大のヒット曲。きらびやかにリフを奏でるシンセ・ストリングス。サビのコーラスでサックスがユニゾンするあたりにはアレ ンジの新境地が。
    • Don’t it make my brown eyes blue
      1978年のグラミー賞の受賞曲。オリジナルのクリスタル・ゲイルにも負けない、鈴木リエの透明な歌声が気持ち良い。ここで彼女はピアニカ、オルガンも披露してい ます。

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